2026/09/3
「娘が学校へ行けなくなっています。このままで大丈夫でしょうか」
相談に来られたのは、娘を持つお父さんでした。
娘さんは受験を終え、希望していた学校に合格しました。
ところが受験が終わった2月頃から、学校を休む日が増えました。
3月になるとほとんど登校できず、以前楽しんでいた習い事にも行かなくなりました。
昼夜が逆転し、何か決まった時間に行動すること自体を、
「面倒くさい」
と嫌がるようになりました。
父親は、
「何とか学校へ行けるようにしてあげたい」
という思いでカウンセリングを訪れました。
※以下は複数の相談内容をもとに、個人が特定されないよう十分に加工・統合した架空事例です。
娘さんは3年前から学習塾へ通っていました。
最初の頃は勉強が楽しく、成績が上がることを本人も喜んでいました。
しかし、受験に向けて生活は少しずつ変わっていきます。
塾の日数が増える。
模擬試験を受ける。
休日には学校説明会や見学へ行く。
成績によって志望校を考え直す。
母親には、
「娘のために、できるだけ良い環境へ進ませてあげたい」
という強い思いがありました。
しかし母親の思いと娘本人の気持ちとの間に、少しずつズレが生まれていました。
娘さんは、父親に
「もう疲れた」
「塾に行きたくない」
「成績の話をされたくない」
と話すことがありました。
父親は話を聞き、勉強を手伝いながら受験生活を支えました。
そして努力の結果、本人が希望していた学校への合格を果たします。
家族全員がほっとしました。
ところが、緊張から解放された後、娘さんの気力は急に落ちていったのです。
父親は当初、
「受験が終わったのだから、少し休めば元気になるだろう」
と思っていました。
しかし本人は、
「進学した学校で勉強についていけなかったらどうしよう」
「知らない人ばかりなのが怖い」
「また頑張らないといけないの?」
と話すようになりました。
カウンセリングでは、まず父親に、
「学校へ行かせる方法を急いで探す前に、今は娘さんの気持ちや、どのくらい疲れているのかを理解してみましょう」
と提案しました。
長期間頑張った人は、目標を達成した直後に、それまで抑えていた疲労や感情が一気に表出することがあります。
休んでいる姿だけを見ると、
「怠けている」
「せっかく合格したのに」
との思いが出るかもしれません。
しかし本人にとっては、心身が「これ以上は頑張れない」と知らせている時期なのかもしれません。
家族は、しばらく登校を強く迫らないことにしました。
起床時間を毎日厳密に管理するのではなく、まず睡眠や食事など基本的な生活を少しずつ整える。
学校の話ばかりしない。
できなかったことより、
「今日は一緒に食事ができたね」
「少し外に出られたね」
と、小さな変化を大切にする。
そして、強い気分の落ち込みなどについては、様子を見ながら、必要に応じて児童精神科・小児科等にも相談すること考えました。
その後、母親にもカウンセリングに参加してもらいました。
母親は涙を流しながら、
「私が追い詰めてしまったのでしょうか」
と話しました。
話を聞いていくと、母親自身に、
「娘には良い人生を歩んでほしい」
「将来困らないようにしてあげたい」
という思いや、強い不安がありました。
カウンセリングでは、母親の思いや不安を受け止めながら、
「娘を思う気持ち」と「娘が自分で人生を選ぶこと」をどう両立するか
を一緒に考えていきました。
成績を頻繁に確認しない。
本人から話してくるまで学校の話を待つ。
一人で過ごしたい様子がみられたときにはそっとしておく。
一方で、困ったときにはいつでも話せることを伝える。
母娘のコミュニケーションを少し見直すことで、家庭内の緊張も徐々に和らいでいきました。
4月になり、娘さんは進学しました。
最初から毎日問題なく登校できたわけではありません。
朝起きられず休む日もありました。
途中から登校する日もありました。
学校とも相談しながら、本人の状態に合わせた過ごし方を検討しました。
大切にしたのは、
「今日は行けた、行けなかった」
だけで評価しないことでした。
本人が、「この先生なら話せそう」と思える先生を見つける。
気の合う友達が一人できる。
好きな授業に参加する。
一週間のうち、無理をしない日をつくる。
そんな経験を積み重ねていきました。
両親は、
「学校で何が不安なのか」
「友達にどう声をかけたらよいのか」
「嫌なことがあったとき、誰に、どう助けを求めるか」
など、本人の話を聞きながら話し合っていきました。
入学から数か月。
娘さんにはまだ疲れやすさがあり、時折学校を休むこともありました。
それでも、以前のように一日中部屋から出られない日は減っていきました。
友人とのやり取りも増え、家でも自分から話すことが増えました。
母親とも、受験期のように勉強を中心にした関係から、
「一緒に買い物に行く」
「好きな動画について話す」
といった親子の日常が戻り始めました。
父親は、
「学校へ行かせることばかり考えていました。でも、この子が安心できて、活動できる状態を取り戻す方が先だったんですね」
と振り返りました。
回復とは、「以前と同じ状態に戻ること」とは限りません。
本人と家族が、自分たちに合った新しい関わり方を見つけていくことでもあります。
受験を終えた後、
「急に何もしたがらなくなった」
「昼夜逆転している」
「習い事にも行かなくなった」
「中学校へ行けるのか不安が強い」
「親と子どもの関係が悪くなっている」
といった変化がみられることがあります。
そのとき、本人を「学校へ戻すべき」との思いにとらわれず、受験生活を含めたこれまでの頑張り、家族のコミュニケーション、新しい環境への不安などに目を向けてみることも大切です。
不登校への支援については、「登校する」という結果だけを目標にせず、本人の成長を支え、ゆくゆくは一人の大人として本人らしく生きていけるようにという視点が重要になります。
ご本人がすぐに相談へ来られない場合には、まずお父さま・お母さまだけで相談を始めることもできます。
カウンセリングでは、お子さんの現在の状態を整理しながら理解し、必要に応じて心理検査等も活用しながら、家庭での接し方、親子の距離感やコミュニケーションの取り方の見直し、落ち込みや不安等への心理支援、新しい学校への段階的な適応、友人関係や学校生活への自信の回復などをサポートしていくことができます。
また、児童精神科・小児科などの医療機関、学校や関係機関とも役割を分けながら支援を考えていきます。
「何とか学校へ行けるようにしなければ」と焦る前に。
まずは、お子さんがこれまでどれほど頑張ってきたのか、そして今、何に疲れ、何を不安に感じているのかを一緒に理解するところから始めてみませんか。
休むことも、立ち止まることも、次の一歩を踏み出すための時間になることがあります。
