さがみはらカウンセリングルーム

column

2026/10/19

「研究、学術成果以外に何が残るのだろう」―50代研究者が働き方を見直すまでー

Cさんは50代後半。大学・研究機関で長年、特定分野の研究を続けてきました。

若い頃から研究が生活の中心でした。

休日も論文を読む。

海外の研究者と夜間にオンライン会議をする。

学会発表前には数日間ほとんど研究室にこもる。

そうした働き方を長く続け、専門分野では一定の評価を得てきました。

一方で、仕事以外の人間関係は次第に少なくなっていました。

在宅で論文を書く日も増え、誰とも会話しない日もあります。

研究費申請や発表が重なると睡眠が乱れ、夜に気持ちを切り替えるため飲酒することが増えていました。

「研究が終わったら、自分には何が残るのだろう」

定年や今後のキャリアを意識するにつれ、そんな不安も強まります。

しかし自由度が高い専門職だからこそ、働きすぎを止めてくれる人もいません。

ある学会発表の前、不眠と強い不安が続き、

「これは仕事だけの問題ではないかもしれない」

と、カウンセリングルームを訪れました。

カウンセリングでは、研究上の悩みに加えて、

「研究者ではない自分をどう感じているか」

「仕事以外で人とつながる場所はどこか」

について振り返りました。

Cさんは、

「成果を出しているときだけ、自分には居場所があると思っていたのかもしれません」

と話しました。

そこで、仕事を減らすことだけではなく、生活全体を再構成していきました。

若手研究者を支援する役割を持つ。

昔の友人との交流を再開する。

休日には研究と関係のない活動に参加する。

眠るための飲酒に頼らず、生活リズムを整え、リラックスを心がける。

飲酒量を自分で調整できない状態が続く場合には、医療機関や専門相談機関につながることも検討しました。

半年ほどするとCさんは、

「研究を続けたい気持ちは変わりません。でも、研究だけで一日を埋めなくてもいいと思えるようになりました」

と話すようになりました。

専門性を極めてきた人ほど、仕事から距離を取ることに不安を感じる場合があります。

しかし、専門家として長く活躍するためにも、「仕事以外の自分」を育てておくことが、心の柔軟性につながっていきます。