2026/09/1
「ギャンブルで大きな問題を起こしてしまった」
「家族にも会社にも知られ、もう信用を取り戻せない気がする」
「精神的に限界です。とにかく誰かに話を聞いてほしい」
オンラインカジノやその他のギャンブルによる問題は、金銭面だけにとどまりません。
家族関係、仕事、社会的信用、将来のキャリアなど、それまで築いてきた生活全体に大きな影響を及ぼすことがあります。
特に、それまで仕事で高く評価され、大きな問題なく生活してきた人ほど、一度の発覚やトラブルをきっかけに、
「自分の人生は終わった」
と強く自分を責め、精神的に追い込まれてしまうことがあります。
今回は、ギャンブル問題をきっかけにカウンセリングを利用し、自分自身の生き方やストレスへの向き合い方を見直していった方の架空事例をご紹介します。
Aさんは30代後半の会社員です。
新卒から同じ企業で働き、仕事熱心で行動力があり、同年代の中でも比較的早く責任ある業務を任されていました。
上司からの評価も高く、後輩から相談されることも多い、いわゆる「仕事のできる中堅社員」でした。
一方、ここ数年は仕事量が増え、責任も重くなっていました。
帰宅後も仕事のことが頭から離れず、休日も十分に休めません。
そんな中、Aさんはスマートフォンで気軽にできるギャンブルに触れるようになりました。
最初は、
「少し気分転換するだけ」
「仕事のことを忘れられる」
という程度でした。
しかし、次第に利用する頻度や金額が増えていきます。
負けると、
「次で取り返せる」
と続ける。
勝つと、
「もう少し増やせるかもしれない」
と続ける。
気づけば、ギャンブルはそれ自体に没頭することで、仕事のストレスや不安から逃れるための習慣になっていました。
妻からは以前から、
「最近スマートフォンばかり見ている」
「お金の使い方がおかしくない?」
と言われていました。
しかしAさんは、
「大したことじゃない」
と詳しく話しませんでした。
実際には、貯金を取り崩し、一部は借入れにも頼るようになっていました。
「次に勝てば戻せる」
そう考えているうちに、問題はさらに大きくなりました。
そしてある日、金銭上の問題や勤務中の行動などが会社にも知られることとなり、社内で事情確認が行われました。
それまで高く評価されてきたAさんの信用は大きく揺らぎました。
重要な業務から外され、今後の処遇についても分からない状態になります。
妻にもすべてが発覚しました。
「どうして相談してくれなかったの」
「家族のお金を何だと思っているの」
という言葉を受け、Aさんは強い罪悪感を抱きます。
眠れなくなり、食事も喉を通らない。
職場に行けば周囲の目が気になる。
家に帰れば妻と顔を合わせることが怖い。
「全部なくしてしまうかもしれない」
不安が強まり、カウンセリングを利用することになりました。
Aさんが最初に求めていたのは、
「この先、どうしたらいいのか」
という答えでした。
しかし、カウンセリングでこれまでの生活を振り返るうちに、別の問題も見えてきました。
Aさんはもともと、
という傾向がありました。
子どもの頃から、
「迷惑をかけないように」
「人より頑張らなければ」
という意識が強く、困ったときに人へ助けを求めることが得意ではありませんでした。
仕事ではその性格が評価につながった一方で、ストレスを抱え込んでも周囲に相談できませんでした。
家庭でも妻との会話が減り、仕事の悩みや将来への不安を話すことが少なくなっていました。
Aさんは面接の中で、
「ギャンブルをしている間だけ、仕事の評価とか家族のこととか、何も考えなくて済んでいました」
と話しました。
ギャンブルによって問題を起こした場合、その行動について本人が責任を持って向き合うことは大切です。
しかし、
「もう絶対にやらない」
「意思を強く持つ」
だけで再発を防ぐことが難しい場合も多くあります。
なぜギャンブルに向かうようになったのか。
どのような状況で衝動が強くなるのか。
ストレス、不安、孤独、怒りなどを、これまでどのように処理してきたのか。
こうした背景を整理することが重要になります。
Aさんの場合も、カウンセリングでは、
といったことを一つずつ検討していきました。
ギャンブルをやめたいと思っても繰り返してしまう、借金を重ねる、家庭や仕事に大きな影響が出ているといった場合には、ギャンブル等依存症を含め、専門的な評価や支援が必要になることがあります。
そのため、必要に応じて医療機関や依存症専門の相談機関、自助グループなどを利用することも大切です。
カウンセリングルームでは、そうした専門支援と役割を分けながら、
「なぜ自分はこの問題を繰り返してしまったのか」
「何を変えれば生活を立て直せるのか」
「自身の課題とこれからどう向き合うか」
といった心理的なテーマを一緒に整理していくことができます。
Aさんは一定の社内対応を受け、以前と同じような評価やキャリアをそのまま歩むことは難しくなりました。
当初は、
「もう昇進できないなら、自分には価値がない」
と考えていました。
しかしカウンセリングを続けるうちに、
「自分は会社から評価されることで、自分の価値を決めていたのかもしれない」
と気づきました。
仕事のストレスを早めに誰かへ相談する。
家庭で不安や失敗も話す。
ギャンブル以外の方法で気分転換する。
お金の管理を一人で抱え込まない。
自分の生活を仕事だけで埋めない。
そうした変化を少しずつ積み重ねていきました。
妻との関係もすぐに元通りになったわけではありません。
しかし、必要に応じて夫婦で相談する機会を持ちながら、
「隠さない」
「困ったときには話す」
「一人で解決しようとしない」
という新しい関係を築いていきました。
しばらくしてAさんは、
「起こしたことをなかったことにはできません。でも、今まで自分が何から逃げていたのかは、少し分かるようになりました」
と話しました。
失った信用を取り戻すには時間がかかります。
金銭問題の解決にも、現実的な対応が必要です。
それでも、
「なぜこの問題が起きたのか」
「なぜギャンブルが必要になっていたのか」
「これから同じことを繰り返さないために何が必要なのか」
を整理し、生活を組み立て直していくことはできます。
ギャンブルの問題は、単に「意思が弱い」「だらしない」という言葉だけでは説明できず、仕事のプレッシャー、孤独、人間関係、夫婦関係、自分自身の性格傾向、衝動性や注意の偏りなど、さまざまな要因が関係していることもあります。
ギャンブルの問題が発覚したとき、
「こんなことを話したら軽蔑される」
「自業自得だと思われる」
「家族にも会社にも言えない」
と考え、一人で抱え込む方もいます。
しかし、責任を引き受けることと、自分自身を徹底的に否定することは別です。
「取り返しのつかないことをしてしまった」
そう感じているときほど、一人だけで人生の大きな決断をしたり、結論を急がないことが大切です。
過去の出来事そのものは変えられなくても、その出来事とどう向き合い、これからどのような生活を築いていくかは、今から考えていくことができます。
