2026/10/3
「就職しなければいけないことは分かっています。でも、何から始めればいいのか分かりません」
そう話したAさんは、20代の大学生でした。
子どもの頃から、人前に立つことや集団活動、同年代とのコミュニケーションに強い緊張を感じることがあり、ストレスが高まると腹痛や頭痛などの体調不良が出やすい傾向がありました。
学校生活では休みがちになる時期もありましたが、少人数の環境や、理解のある先生との関係、好きな趣味を共有できる友人がいる場所では、比較的安定して過ごすことができました。
その後、医療機関で自閉スペクトラム症と診断されました。
高校卒業後はいったん大学へ進学したものの、大人数の授業、長時間の通学、自分で時間割や課題を管理する生活になじめず中途退学。
その後、通信制大学に再入学し、アルバイトと学業を自分のペースで進めています。
そこでは、学生相談員の支援もあり、少しずつ学業を続けられるようになりました。
しかし卒業が近づくにつれ、「就職」という新しい問題が現れました。
Aさんは、
「好きなことを仕事にしたい」
という希望を持つ一方、
「会社で人とうまくやれる自信がない」
「毎日決まった時間に通勤できるのか不安」
という気持ちも抱えていました。
ご家族は、一般就労だけでなく、障害者雇用や特性を職場に伝えて働く方法も含めて考えてほしいと思っていました。
一方、Aさん自身にはまだ就職への実感がなく、興味のあることを優先して、企業研究や応募準備を先延ばししてしまう日々が続いていました。
カウンセリングでは、まずAさんがこれまでどのような環境なら過ごしやすかったのかを丁寧に振り返りました。
心理検査やカウンセリングでの話し合いから、複数の情報を素早く処理したり、複雑な説明を頭のなかで整理して理解する場面では負担が大きくなりやすい一方、決められた手順に沿って一つの作業に集中することや、自分の興味のある分野では粘り強く取り組めることが分かりました。
実際、アルバイトでは、接客よりも品出しや整理、バックヤード作業など、自分のペースで黙々と進められる仕事を安定して続けることができていました。
「人と同じように働けるか」ではなく、
「どんな環境なら自分の力を発揮できるか」
という視点に変えることが、Aさんにとって大きな転機になりました。
カウンセリングでは、ご本人とご家族を交えて、
などを具体的に整理しました。
すぐに結論を出すのではなく、学校の進路担当者や担当教員とも相談しながら、実習や職場見学などを通して「自分に合う働き方」を確認していきました。
最終的にAさんは、自分の得意分野を活かせる業務で、必要な配慮を受けながら働ける職場への就職が叶いました。
就職後も、疲れがたまると生活リズムが崩れたり、対人関係で悩んだりすることはあります。
それでも、
「以前は困ると休むしかなかったけれど、今は早めに相談できるようになった」
と話せるようになりました。
発達特性がある方にとって、「働くこと」は仕事内容だけの問題ではありません。
通勤、時間管理、人間関係、疲労への気づき、困ったときの相談など、多くの要素が関係します。
大切なのは、苦手なことを無理に克服することだけではなく、得意なこと、環境との相性、必要な支援を理解することです。
また、ご本人だけでは就職について整理しにくい場合には、ご家族と一緒に相談しながら、一般就労、障害者雇用、特性を伝えて働く方法なども含め、その方に合った働き方を考えていくことができます。
「普通に働けるか」ではなく、「自分らしく働き続けるには何が必要か」。
カウンセリングでは、その答えを一緒に探しながら、就職後も安定した生活と就労を続けられるようサポートしていくことができます。
