2026/09/29
「気づいたら、自分の仕事がどんどん増えていました」
「家に帰れば親のことがある。休みの日も、自分の時間がありません」
Aさんは、長年同じ会社で働いてきた中堅社員です。
真面目で几帳面。頼まれた仕事は最後までやり遂げるため、上司や同僚からも、
「Aさんの仕事なら安心」
「この仕事もAさんにお願いしたい」
と頼られる存在でした。
Aさん自身も、それを誇りに感じていました。
しかし、上司が交代した後、新しい上司から
「経験もあるし、確実だから」
と仕事を次々と任され、Aさんに多くの業務が集中するようになりました。
本当は余裕がなくても、
「できません」
と言えません。
「忙しいのはみんな同じ」
「自分がやった方が早い」
と考え、残業して帳尻を合わせていました。
Aさんにはもう一つ、大きな負担がありました。
高齢になった両親の通院付き添いや買い物、役所の手続き、家の用事などを、ほぼ一人で引き受けていたのです。
休日も実家へ行き、帰宅すると夕方。
趣味や友人との時間はいつの間にかなくなっていました。
「自分ができることを人に頼むのは申し訳ない」
そう考えていたAさんは、職場でも家庭でも「自分が何とかして周囲を支える人」になっていました。
やがて、眠れない、朝起きると動悸がする、仕事中に涙が出そうになるといった状態が現れ、医療機関から一定期間の休養を勧められました。
そして主治医から勧められる形で、Aさんはカウンセリングを受けることになりました。
カウンセリングでは、今回の不調だけでなく、これまでの働き方を振り返りました。
するとAさんには、
「頼まれたら断らない」
「困っても、ある程度自分で解決してから相談する」
「周囲に迷惑をかける気がするので、弱音を吐かない」
というパターンがありました。
責任感や粘り強さはAさんの長所です。
しかし、それが行き過ぎると、Aさんがどんなに辛くても周囲からは「まだ余裕がある人」に見えてしまいます。
Aさんは、
「限界になるまで、誰にも困っていると伝えていなかった」
と気づきました。
復職準備では、実際の職場場面を想定した練習も行いました。
例えば、
「今三つの業務を担当しています。新しい仕事を受ける場合、どれを後ろにすればよいですか」
「ここまではできますが、この部分は支援をお願いしたいです」
「困ってからではなく、今の段階で一度相談させてください」
など、具体的に周囲への伝え方を考え、実際に言葉にしていくことです。
カウンセリングの中で、援助要請も仕事のスキルの一つとして身につけていきました。
両親についても、Aさん一人がすべてを担う方法を見直しました。
家族と相談し、地域包括支援センターや介護サービスについて情報を集め、必要に応じてケアマネジャーなどの専門職へ相談することも検討しました。
「親を大切にすること」は、「自分一人で全部世話をすること」ではありません。
支援を利用することで、Aさん自身にも休息や趣味の時間が少しずつ戻り、気持ちの余裕も取り戻しました。
復職後、Aさんは以前のように何でも引き受けるのではなく、業務量を上司と確認し、困りごとを早めに共有するようになりました。
「以前は、助けを求めるのは最終手段と思っていました。でも今は、早めの相談を必要なことだと思えます」
とAさんは話しています。
一人で頑張れることは、大きな力です。
しかし、長く働き、家族とも支えあっていくためには、
「頑張る力」と同じくらい、「相談する力」「人や制度に頼る力」も大切です。
